OKI DUB AINU BAND
SAKHALIN ROCK
Interview by Hajime Oishi / Photo by Wataru Umeda
アイヌの伝統弦楽器、トンコリをご存知だろうか。アイヌの血を引くOKIは、このトンコリを手に、世界でも類を見ないダブ・サウンドを鳴らし続けている。内田直之、沼澤尚といった盟友たちと作り上げた新作『Sakhalin Rock』----この衝撃は本誌読者にこそ体験してほしい。
トンコリという楽器の成り立ちについて、ここで細かく触れるスペースの余裕はない。ただ、この楽器のルーツとされているのがサハリンの地であり、OKIにとっては今年の頭に10日間ほどサハリンに滞在したことが本作のインスピレーションの源となったこと、この点は最初に強調しておこう。以下はOKIの発言。
「サハリンにアイヌのコミュニティが残っているわけでもないし、すごいトンコリ奏者がいるわけでもないんですよ。だから、僕のなかでは"サハリンに行かないといけない"っていう気持ちになかなかなれなかった。ただ、実際に行ってみたら、本当にエンプティ、何にもないんですよ。帰ってきてから思ったのは、これまでサハリンの空気を自覚しながら演奏するようなことをやってこなかったわけでね、そこは猛反省した。長いことトンコリを弾いてても、そんなことも分かってなかった。オレは北海道のアイヌがルーツなんですけど、一気に先祖の存在がのしかかってきたんです」
「サハリンの何もない空間を表現することもできたんだろうけど、オレが最初に取りかかったのはサハリンの昔の曲を解析して、そこにリズムを打ち込んでいくことだった。そうしたら、やたらと早いステッパーみたいな曲ができてきた。そこにトンコリをカブせていって、歌を入れようとした時、最初に出てきた言葉が"Sakhalin Rock"だったんだよ」
「最初のコンセプトは"ライヴでできる曲をやろう"。でも、ライヴじゃできない(タイトル曲)『Sakhalin Rock』がいきなりできちゃった。あのドラムをどう(生で)やるべきか、スライ・ダンバーに聞きたいぐらい(笑)。ロックというか、ロッカーズなビートですよね。(本作収録曲)『Konkon』は変拍子なんですけど、ドラムとかベースは完全レゲエ・マナー。今回はほとんどの曲でベースを弾いたんですけど、アイヌのおばあちゃんが弾いてるトンコリのメロディをそのままベースで弾くと、ロビー・シェイクスピアみたいになるんですよ」
「何でアイヌ音楽とレゲエが共通しているのか? それはね、ジャマイカ人がレゲエを"発明"したんじゃなくて、"発見"したっていうことだと思うんですよ。地球の中心から出てくるヴァイブスを感知して作ったのがレゲエで、同じような発見をした人は世界中にいると思う。アイヌ音楽もそのひとつなんじゃないかな」
こうした彼の世界観をまとめているのが、内田直之のダブ・ミックスだ。
「だから"Dub Ainu Band"って名乗ってるぐらいでね、彼はアーティストだから。普通のエンジニアって(ミュージシャンとは)役割が違うっていう意識があると思うんだけど、リー・ペリーにせよキング・タビーにせよ、表現に関わるところまで踏み込んで曲を変えちゃうわけでしょ。彼も確実にそういう人だし、彼ナシにこのバンドは成り立たない」
とにかく、このアルバムは凄まじいアルバムである。その凄まじさがレゲエ愛好家にこそ体験してほしい類いのものであることは、何度でも強調しておきたいと思う。
なお、OKIは11月にイギリスへと渡り、かのジャー・ウォーブルとコラボレーションする予定もあるとか。どんな結果を残すのか、こちらも楽しみだ。
「Sakhalin Rock」
Oki Dub Ainu Band
[チカルスタジオ / CKR-0116]
OKI DUB AINU BAND「SAKHALIN ROCK TOUR 2010」
9月3日(金)東京・渋谷クアトロ
9月10日(金)札幌・ジャスマックプラザ ザナドゥ
9月17日(金)京都・Kyoto Muse
Total Info:www.tonkori.com